また今日も、やり直し指示か…。
デスクで一人、深くため息をついたことはありませんか?
鳴りやまない電話、積み上がる書類、そして終わらない工期との戦い。
「建設業界の将来は暗い」なんて言葉を耳にするたび、「本当にそうかもしれない…」と、心がすり減っていく感覚。
かつての僕も、全く同じでした。
いや、それ以上に絶望し、一度はこの業界から逃げ出した人間です。
しかし、そんな僕がなぜ、再びヘルメ-ットを被ることにしたのか。
そして今、なぜ確信を持って「建設業界の未来は、僕らが思うよりずっと明るい」と言えるのか。
この記事は、単なる精神論や業界の解説ではありません。
僕が経験した大きな失敗、業界の外から見て初めて気づいた衝撃、そして再び現場に戻って掴んだ確かな希望の物語です。
もしあなたが今、少しでも今の仕事に迷いや不安を感じているなら、どうかもう少しだけ、僕の話に付き合ってください。
この記事を読み終える頃、あなたは自分の仕事への誇りを再発見し、未来の現場を創る主役は自分なのだと、確信しているはずですから。
なぜ建設業界の将来は「暗い」と言われ続けるのか?
まず、目をそらさずに現実を見つめることから始めましょう。
僕たちが日々肌で感じている閉塞感には、明確な理由があります。
逃れられない「人手不足」と「高齢化」の現実
「若手が全然入ってこない」。
これは、どこの現場でも聞こえてくる悲鳴ではないでしょうか。
実際にデータを見ても、建設業界の就業者数はピーク時から3割近くも減少し、特に若者のなり手不足は深刻です。
現場を見渡せば、頼りになるのはベテランの職人さんばかり。
ですが、その熟練の技術を持つ方々の4人に1人は、60歳以上というのが今の現実です。
「背中を見て覚えろ」と言われても、その大きな背中が、もうすぐ現場から見えなくなってしまうかもしれない。
この技術承継の問題は、業界の根幹を揺るがす大きな課題です。
心身をすり減らす「長時間労働」という名の古い慣習
「工期を守るためなら、徹夜も厭わない」
それが美徳とされた時代も、確かにありました。
僕も若い頃は、夜明けの光を現場で浴びながら、「今日もやりきった」と妙な達成感に浸っていたものです。
しかし、全産業の平均と比べても明らかに長い労働時間、なかなか当たり前にならない週休2日制。
この古い慣習が、多くの仲間たちの心と体を蝕んでいる現実から、もう目を背けることはできません。
家族との時間や自分のための時間を犠牲にしてまで守るべき工期とは、一体何なのだろうか。
そんな疑問が、静かに胸に積もっていきます。
追い打ちをかける「2024年問題」という名の激震
そして今、僕たちに突きつけられているのが「2024年問題」です。
働き方改革によって、時間外労働に上限が設けられました。
もちろん、働く環境が良くなること自体は、歓迎すべきことです。
しかし、「じゃあ、今まで残業でカバーしてきた仕事量はどうなるんだ?」というのが、現場の正直な気持ちでしょう。
工期の遅れ、人件費の増加、そして会社の収益悪化…。
聞こえはいい改革の裏で、僕たちの肩には、これまで以上のプレッシャーがのしかかってきているのです。
一度ヘルメ-ットを脱いだ僕が見た「異世界」と建設業界への絶望
これらの厳しい現実を前に、かつての僕はあっさりと心を折られました。
いや、自ら叩き割った、と言うべきかもしれません。
僕が現場を去った日 – 数億円の損失と逃げるような転職
28歳の時でした。
僕は、都心で進む大規模な複合ビルの建設現場にいました。
若さゆえの過信か、連日の激務による慢心か。
僕自身の確認ミスが原因で、大規模な手戻りを発生させてしまったのです。
損失額は、数億円。
工期も大幅に遅れました。
発注者や協力会社に、毎日ひたすら頭を下げる日々。
しかし、何よりも辛かったのは、共に汗を流してきた仲間たちの、無言の視線でした。
その視線は、どんな罵声よりも冷たく、僕の心に深く突き刺さりました。
「もう、ここにはいられない」
僕は、愛していたはずの現場から、逃げるように去りました。
これが、僕の最初のターニングポイントです。
物流テックで学んだ「データ」と「情報共有」の衝撃
縁あって転職したのは、建設とは全く無縁の、物流テックのベンチャー企業でした。
そこは、僕がいた世界とはまるで違う「異世界」でした。
1分1秒の動きがデータで可視化され、徹底的に無駄が排除されていく。
全ての情報がリアルタイムで共有され、誰か一人の経験や勘に頼るのではなく、チーム全体が最適な判断を下していく。
生産性の劇的な向上を、僕は目の当たりにしました。
衝撃でした。
そして、愕然としました。
「なぜ、あれほど必死だった現場に、この視点がなかったんだ…」
人間関係は、見えない部分の「配筋」が全体の強さを決めるように、緻密であるべきです。
しかし、僕たちがやっていたのは、属人的な経験と根性論という、あまりにも脆い鉄筋で巨大な構造物を支えようとするようなものだったのかもしれない。
そう気づいた時、建設業界への想いは、憧れから絶望へと変わっていました。
絶望の淵から見えた希望の光:建設業界の「夜明け」はもう始まっている
もう二度と戻ることはない。
そう思っていた古巣から、一本の電話がかかってきたのは、それから3年後のことでした。
「岩倉、お前のあの失敗がきっかけで、うちもようやく変わろうとしている」
元上司のその言葉が、僕を再び光の中へと引き戻してくれたのです。
僕が今、建設業界の未来は明るいと断言できる理由。
それは、かつて僕を絶望させた古い常識が、今まさに地殻変動を起こしているからです。
BIMが変える現場 – “3Dの設計図”は未来の羅針盤だ
その地殻変動の中心にあるのが、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)です。
難しく聞こえるかもしれませんが、BIMとは言わば、「建物の“3Dの設計図”に、コストや仕上げ、メンテナンスの情報まで詰め込んだもの」と考えてください。
これまでバラバラだった情報を、一つの立体的なモデルに集約する技術です。
これが、現場を劇的に変えます。
例えば、設計段階で配管と鉄骨がぶつかる(干渉する)ことが事前に分かるため、現場での手戻りがほぼゼロになる。
必要な資材の量を正確に算出できるので、無駄なコストを徹底的に削減できる。
僕が復帰後に担当したプロジェクトでは、このBIMを徹底的に活用し、年間で2.1億円のコスト削減と、工期の15%短縮を達成することができました。
これは魔法ではありません。
情報とデータを活用すれば、建設現場はこれだけのポテンシャルを秘めているという証明です。
BIMは、複雑な現場を航海するための、未来の羅針盤なのです。
i-Constructionが拓く未来 – テクノロジーは「敵」ではなく「最高の相棒」
もう一つの大きな波が、i-Constructionです。
ドローンが空から測量を行い、ICT(情報通信技術)を搭載した重機が、設計図通りに自動で地面を掘削していく。
まるでSF映画のようですが、これはもう当たり前の光景になりつつあります。
こうしたテクノロジーは、決して僕たちの仕事を奪う「敵」ではありません。
むしろ、これまで「きつい、危険」と言われてきた作業を肩代わりしてくれる「最高の相棒」です。
危険な高所での作業や、真夏の炎天下での測量。
そうした過酷な仕事は、テクノロジーに任せればいい。
僕たち人間は、もっとクリエイティブで、人にしかできない仕事に集中できるようになるのです。
僕が愛する建設業界に復帰した3つの理由
元上司からの電話を受け、そして業界の大きな変化を知った時、僕の中で何かが再び熱を帯びていくのを感じました。
僕が、あの悔しい思いをした現場に、愛する建設業界に復帰しようと決意した理由は、3つあります。
理由1:仕事の本質が「根性論」から「知恵と工夫」に変わるから
かつての現場は、気合と根性で乗り切る場面が多すぎました。
しかし、BIMやi-Constructionが普及した未来の現場は違います。
どうすればもっと効率的に進められるか。
どうすればもっと安全な現場を創れるか。
どうすればもっと関わる人全員が幸せになれるか。
キャリアプランを考える時、まずは正確な「墨出し」から始めるように、仕事そのものにも緻密な戦略と計画が求められるようになります。
汗の量だけでなく、知恵と工夫が正当に評価される。
そんな知的でクリエイティブな産業へと、建設業は進化していく。
そのダイナミズムの中心に身を置きたいと、強く思いました。
理由2:社会を支える「誇り」だけは、決して変わらないから
テクノロジーがどれだけ進化しても、この仕事の根本的な価値は、決して揺らぎません。
僕たちが造っているのは、単なる建物や道路ではないからです。
それは、家族の笑顔が生まれる家であり、新しいビジネスが生まれるオフィスであり、人々の命を守るインフラです。
地図に残り、歴史に刻まれ、何十年、何百年と人々の生活を支え続ける。
朝日を浴びて輝く組み上がったばかりの鉄骨を見た時、この仕事を選んでよかったと心から思った、あの日の気持ち。
この「誇り」だけは、どんな時代になっても、僕たちの胸の中から消えることはないのです。
理由3:変革期の今こそ、君のような若手が主役になれるから
そして、これが最大の理由です。
今、建設業界は100年に一度の大きな変革期を迎えています。
古い常識や、過去の成功体験は、もはや通用しません。
これは、ベテランにとっては厳しい時代の始まりかもしれません。
しかし、新しい価値観やデジタル技術に柔軟な若い世代にとっては、これ以上ない最大のチャンスです。
「昔はこうだった」という重力から解き放たれ、新しいやり方を提案し、実行できる。
実際に、僕がいたIT業界のように、テクノロジーを武器に建設業界をアップデートしようと本気で取り組む企業も次々と生まれています。
例えば、建設業界のDXを推進するBRANUの採用チームの様子などを見てみると、若い世代が中心となって、これまでの常識にとらわれない新しい働き方を実践しているのがよく分かります。
古い地図はもう役に立たないのです。
未来の現場という新しい地図を描くのは、他の誰でもない、あなた自身です。
大変な仕事です。でも、だからこそ面白い。
最後に、この記事の要点を振り返ってみましょう。
- 建設業界は確かに「人手不足」「長時間労働」「2024年問題」という大きな課題を抱えている。
- しかし、BIMやi-Constructionといったテクノロジーが、これらの課題を解決する強力な武器になる。
- 仕事の本質は「根性論」から「知恵と工夫」へと変わり、建設業はよりクリエイティブな産業へと進化する。
- 社会を支えるという仕事の「誇り」は不変であり、変革期の今こそ、若手が主役になれるチャンスがある。
僕も、まだまだ道半ばです。
現場では、新しい技術への反発もありますし、日々頭を悩ませることばかりです。
大変な仕事です。
それは、紛れもない事実です。
でも、だからこそ面白い。
自分の手で、業界の未来を、社会の未来を創っていけるのですから。
もしあなたが今、ヘルメットの下で一人、唇を噛んでいるのなら。
どうか、顔を上げてください。
あなたのその悔しさや、もっとこうしたいという想いこそが、これからの現場を動かす原動力になります。
現場は、もっと面白くなる。
一緒に、その未来を創っていきましょう。